「さ……」
振り返るすぐ目の前で、浅黒い小顔がため息をつく。そうして、その視線を美鶴へ向けた。
「ずいぶんと、荒れてるな」
「お前か」
「八つ当たりはやめてくれよ」
剣呑な視線に、掌を向ける。
「せっかくの顔が、醜いぜ」
「くだらない戯言を言いに来たの? それとも――」
口元を歪ませ、睨めつける。
「アンタも私を、笑いに来たの?」
「何を笑う?」
「どうせ、成績が下がってざまぁみろとかって思ってるんでしょう?」
「あのなぁ」
呆れたように頭を掻くが、美鶴は言葉を減らすつもりはないらしい。
「捻くれるのも、いい加減にしろよ」
瑠駆真の肩に手をのせ、そのまま一歩前へ出た。だが、それ以上は美鶴の視線が許さない。
「生憎と、私はこの性格を変えるつもりはないわ。嫌なら出て行って」
「美鶴――」
誰も、お前を笑っちゃいないよ
だがその言葉は、今の美鶴には届かない。
―――― 届かない
突然、聡の手は振り払われる。ハッと向けた視界の中を、人影が勢い良く横切った。気付いた時には、すでに瑠駆真の姿は遠ざかり始めている。
見送るその背中が、苛立ちと怒りに沸き立っている。
ひたすら相手を罵り、見下し、拒絶することでしか自分を保てない美鶴の姿が、瑠駆真にはどうしても耐えられなかった。
その気持ちは、聡にもわかる。
振り返る先で、美鶴が薄く笑う。
相手を怒らせて楽しむなど―――
「美鶴」
できるだけ抑えた声。
「いい加減にしろよ」
「何が?」
思わず舌を打つ。
相手を笑い、蔑み、虐げる。
美鶴を笑う人間がいると言うのなら、美鶴自身もまた、自分を笑う相手と同じ人間になりつつあるという事実に、なぜ気付かないっ?
握り締めた拳に伸びかけた爪が食い込み、痛い。
「美鶴」
見下ろす先の、美鶴の喘笑。
笑った ――――っ!
まるで瑠駆真の後を追うように、その場から走り去っていた。
あんな美鶴など、見ていたくない―――
そんな聡の後ろ姿を見送りながら、美鶴は目を細めた。
別に悪かったとか、言い過ぎたなんて気持ちはない。むしろ、これで良かったとすら思う。
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